皆さん、こんにちは。神奈川県 横浜市 南・港南支部所属 行政書士 近田知成です。
記事投稿第57回目となる今回のテーマは、【任意後見契約における代理権について】です。
任意後見契約は、精神上の障害により判断能力が低下した場合に備え、あらかじめ後見事務の内容や後見人を『自らの選択で』決めておく制度です。その選択の中で重要となる部分は①【後見人となる人をどう選ぶか?】という点と、②【後見事務の範囲(任意後見人の権限の範囲とも言えます)をどこまでとするか?】という点の検討にあります。
以前の記事の中で①【後見人となる人をどう選ぶか?(担い手の選択)】については少しご紹介をさせて頂きましたが、もう一つの重要点②【後見業務の範囲をどこまでとするか?】については触れずにいましたので今記事において具体例と共に記していきたいと思います。
関連URL:【任意後見受任者の資質】⇦(①【後見人となる人をどう選ぶか?】のご参考になさってください。)
まず、【任意後見契約】を締結する際の大前提として覚えておいて頂きたい事として【後見事務を行う任意後見人は『契約の中で定められた事務以外の事務は行えない』】という点が挙げられます。
つまり、その契約書の中で型の違いはあれど『代理権の内容を明記』し、【後見人が正式に行う事の出来る事務】を示しておかなければならないという事なのです。この点は非常にシンプルではありますが、契約を結んだ際に『これで安心して何でも(どんなことでも)その受任者の方に頼める』と(委任者側)で勘違いしてしまう恐れも考えられますので理解を促す必要があるでしょう。
任意後見人としては【契約の中で定められた】後見事務をご本人の判断能力の低下後に【任意後見監督人の選任手続き】を経た上で行う事となりますが、後見事務の中心は【ご本人の生活における財産管理と身上監護】活動となります。
では、その【財産管理】と【身上監護】活動の具体的内容はどのようなものになるのでしょうか?下記でその一部をご紹介していきます。
・【介護契約、その他福祉サービスの利用契約、有料老人ホーム入居契約や福祉関係施設への入所に関する契約の締結、変更、解除及び費用の支払い等】
・【要介護認定の申請、認定の承認または異議申立てに関する事項】
・【医療契約、病院などへの入院契約に関する契約締結、変更、解除及び費用の支払い等】
上記項目は自身では契約締結などの行為が困難(判断能力の低下により)となる為、任意後見人のほうで各種の手続きを代理する事となります。任意後見人としては、ご本人の【その人らしさ(価値観)】の存在を根底に、ケアマネの方や医療福祉関係者との連携で適切な後見活動を進めていきます。
例えば、福祉関係施設の入所ならば、介護認定の申請から承認、ご本人の身体・精神状況を医療関係者のアドバイス等をもとに把握しつつ利用施設の検討と施設入所の為の申請センター等への問い合わせや応募手続き、実際に入所先が決まれば訪問し入所契約を結ぶ・・・等が挙げられます。
また、ご本人のお身体の状況如何によっては、福祉関係施設への入所以前の待機中に病状が悪化するかもしれません。その様な場合にあっては、逸早く病院への入院手続きをとる事も考えられます。
一度福祉関係施設への入所又はサービス事業所との契約がなされたとしても、介護認定更新に伴う変化やご本人の状況の変化または施設サービス提供の現状を勘案し、契約の変更、解除を行う事も考慮に入れなければなりません。
【代理権目録】の中にはこのような【ご本人の生活の土台となる環境整備】的な活動も【契約関係の手続き代理】として盛り込まれる事となります。
・【金融機関(郵便局や銀行等)との預貯金取引】
・【住民票・戸籍謄本・登記事項証明書その他行政機関の発行する証明書の請求並びに受領】
・【定期的な収入受領や支出の管理・費用の支払い等に関する事項】
後見人が行う財産管理業務は、ご本人の資産関係の調査から始まり、各取引先金融機関への後見人登録を経て財産管理を始め、ご本人生活費のお渡しからイレギュラーな支出に対する迅速な対応まで多岐にわたります。(財産管理については金銭出納帳による収入支出の明確化・実施された後見事務内容は事務報告書に記載し監督機関からの調査報告にも対応しなければなりません。)
行政機関へ申請をする事で補助金等の支給を受けられる事項(介護保険制度の中での助成対象分野の申請など)があれば、リサーチをかけ期間内に申請を行い、その申請の為に必要となる行政機関発行証明書の請求取得もまた後見人の大切な仕事となります。
ご高齢の方の支援になれば、年金関係の通知書管理もありますし、不動産をお持ちの方の支援となれば、固定資産税の支払いや家屋の老朽化に伴うリスク管理もまたその業務内容に含まれる事も考えられます。
【代理権目録】の中に上記のような【財産管理】と【身上監護】分野においてご本人が【どのような事を行ってほしいのか】を記載して、その記載事項に基づいて後見人は活動をする事になります。
その目録中に後見人がなし得ない事柄を記載する事は適切ではありません。例えば、任意後見契約を基にする契約の取消権を代理権目録に記載してしまう等がこれにあたります。
任意後見人に何が出来て何が出来ないのか?大前提としてその点を委任する側(ご本人)と受任する側(任意後見受任者)双方が把握した上で、実際の後見活動において支障が出ないよう過不足なく代理項目を目録に反映させていく・・・・このような流れが契約検討の段階において必要となるでしょう。
『転ばぬ先の杖』として用意しておいた契約が後にご本人にとって有用なものとなるよう公正証書作成前『起案の時点において』細心の注意を払うのも、既にご本人に対する支援の現れであると私は思います。
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