皆さん、こんにちは。神奈川県 横浜市 南・港南支部所属 行政書士 近田知成です。
第30回目記事投稿となる今回のテーマは【相続における承認と放棄】についてです。
人が亡くなり相続が開始されると【相続人の範囲の確定】と【相続財産の確定】がなされることになります。
相続される財産については、土地・建物等被相続人が所有していた不動産から預貯金・株式証券等金融資産、借地借家権・ゴルフ会員権等各種権利関係など【プラスの財産】のみならず、故人が生前に負っていた借金や住宅ローン等【マイナスの財産】も含め確定していく事となります。
これら【プラスの財産(積極財産)】と【マイナスの財産(消極財産)】を【包括的に承継】するのが相続の基本的な考え方であると言えます。
しかし、相続財産の確定作業の結果、多額の借財が判明したり、他人の契約における連帯保証人となっている事がわかった場合や、相続人間の人間関係のこじれ等からそもそも『相続したくない』と考える方までも上記のような【包括的な承継】をしなければならないのでしょうか?
法律上、相続については【3種の選択肢】を設け相続人となる対象者が自らの自由意思でその道を決定する事が出来るようにしています。
その3種がそれぞれ【単純承認】・【限定承認】・【相続放棄】と呼ばれるもので、【自己のために相続の開始を知った時から3か月】以内(この期間を【熟慮期間】と言います。)に上記3種のいずれかを選択することとなります。この【熟慮期間】内に【何も意思表示をしなかった場合には【単純承認】をしたとみなされる】ので注意が必要です。
以下、3種の選択肢の特徴を述べていきます。
①【単純承認】
被相続人の【プラスの財産】も【マイナスの財産】もひっくるめて全て承継していく型であり、例えば土地・建物等不動産や預貯金等金融資産も承継しますが、借財等があれば自己の財産から返済していかなければならないという事になります。
【3か月の熟慮期間内】に【単純承認】する旨の意思表示をするか、あるいはその期間内に【何もしなかった】場合も同じく【単純承認】をしたものとみなされます。
気を付けなければならない点として、(相続人の意思とは関係なしに)相続人により、法律上一定の行為がなされた場合【単純承認】をしたものとみなすとの規定があるという事です。これを【法定単純承認】と言います。(上記【熟慮期間内に何もしなかった(限定承認や相続放棄をしなかった)】というのも、この【法定単純承認】に当たる事となります。)
その一定の行為とは【相続放棄や限定承認をする前に】、【相続財産の全部または一部の処分をしたとき】(例えば、相続財産の一部を私的に使ってしまったケースや、被相続人が持っていた債権の取り立てを相手方(債務者)に対して行ったケース等が考えられます)であり、このような行為をしてしまうと、後に【相続放棄】や【限定承認】をしようと考えていても、もはや出来なくなってしまうという事になりなす。
また、たとえ【熟慮期間内】に【相続放棄】や【限定承認】の手続きを行ったとしても、その後【財産の全部または一部を隠匿したり、私的に使ったり、悪意をもって財産目録に記載しなかった】場合等も【法定単純承認】したものとみなされ、事前に行った【相続放棄】や【限定承認】の効果を主張出来なくなる結果を招く事となるので注意を要します。
②【限定承認】
承継した【遺産の範囲内】で(【相続財産を限度として】ともいえます)債務の返済をする型で、当該返済後にプラスの財産があれば相続をし、マイナスの財産があったとしても相続する必要はないという事になります。
相続財産確定作業を経ても最終的にプラス分が残るのか、マイナス分にかかってしまうのかが判然としない場合などに有用とされる型ですが、この【限定承認】を選択する際には以下2つの注意点に気を付けなければなりません。
・手続きとして【3か月の熟慮期間内】に【財産目録を調整】し家庭裁判所に【限定承認をする旨の申述】をする。
・複数の相続人が存在する場合、【共同相続人全員が共同で】【限定承認】をしなければならない。
関連URL:『限定承認』http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_14/
①【単純承認】とは違い、【限定承認】は目録調整後【家庭裁判所】への申述を行う事が要件とされており、相続人側からの自発的行動が必要です。
また、他の共同相続人が存在する場合には意思疎通を図り【共同相続人全員で【限定承認】を行わなければならない】点も見逃せません。もし、一人でも【限定承認】に対し反対の意思をお持ちの方が共同相続人間にいた場合には、この型を実行できなくなりますので、【相続人間の共通意思】が重要となるでしょう。
③【相続放棄】
財産確定作業の後、【被相続人の債務が残っている(多額の借財が存在する等)】は判明した場合など、【全面的にその遺産の承継を拒む】型がこの【相続放棄】となります。一度この【相続放棄】の手続きをとると【3か月の熟慮期間内】であっても【撤回する事は出来ない】ので、相続人ご自身の中でしっかりとした意思確認が必要となるでしょう。
【相続放棄】の場合は、②【限定承認】とは違い【相続人それぞれの単独意思】で行うものですが、その手続きとしては②同様【3か月の熟慮期間内に】、【家庭裁判所】への申述(【相続放棄の申述】)が必要となりますのでご注意下さい。
関連URL:『相続放棄』http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/
また、上記①内【法定単純承認】とみなされてしまうような【不用意な行動】をとらないよう気を付ける事も大切だと言えるでしょう。
そして、②と関連して【相続を承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合】には、相続の承認または放棄の【期間の伸長の申立て】が出来る事も合わせお見知りおき下さい。
関連URL:『相続承認又は放棄の期間の伸長』http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_25/index.html
上記3種が【相続時における選択肢】となりますが、これらを決断する時というのは被相続人が亡くなった後の【葬儀やお墓の手配】、【親戚・縁者への連絡】、【お住まいの地域へのお知らせ】、【その他各種手続き】の合間を縫って行われる事が想定されます。
その作業は予想以上に心身両面の負担ともなり得ますので、十分ご自身のお身体をご自愛の下選択されるよう心掛けていただければと思います。
関連URL:【相続後のタイムスケジュール①】 :【相続サポート】
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