皆さん、こんにちは。 神奈川県 横浜市 南・港南支部所属 行政書士 近田知成です。
第18回目記事投稿となる今回のテーマは【相続させる旨の遺言について】です。
遺言書を作成する際、本文中の【文言選択】における大きな論点の一つに、財産を【遺贈】すると記述するのか、あるいは【相続させる】と記述するするのかという問題があります。
どちらを選んでも同じ様なものなのでは?・・・と簡単に考えてしまいそうですが、法律上も、遺言執行上(各種相続手続きも含め)大きな違いがありますので、注意が必要です。
先ず、【遺贈】とは【遺言によってその財産の全部または一部を処分すること】で、遺言により財産を与える人が【遺贈者】であり、財産を与えられた人が【受贈者】となります。
例えば、「遺言者は、遺言者の有する〇〇を△△(昭和▢年▢月▢日生)に遺贈する。」といった書き方が典型例となるでしょうか。ちなみに、〇〇は不動産、預貯金、動産等【遺贈者の財産】、△△は【受贈者の氏名】、▢は【受贈者の生年月日】です。
この【遺贈】という文言自体は、専ら【相続権のない人】に何か自分の財産を与えたいと考えた時に使用するものですが、【相続人(相続権を持つ人)】に対して使えないというものではありません。
しかし、【相続人】にこの【遺贈する】といった形での遺言を残すと【相続させる】と記述した遺言と比べ下記の相違点でデメリットとも言える【余計な手間】が掛かる可能性が発生するのです。
だからこそ、この2つの文言選択には【遺言執行上の手間を見越した上での記述】がとても大切となります。
相違点①【不動産所有権移転登記単独申請の可否】
【相続させる旨の遺言】により相続人に特定の不動産を取得させる形をとれば、他の相続人との遺産分割協議を経ることなく、遺言者の死亡と同時に指定した相続人に当該不動産を取得させる事が可能となります。
つまり、この場合当該不動産の所有権移転登記手続きについては、指定された相続人の【単独申請】となるのです。
一方、同じ状況下で【遺贈する】という文言を選択した場合、不動産所有権移転登記は【受遺者(不動産を譲り受けた者)】と【遺言執行者】または【全相続人】との【共同申請】となり、手続き上面倒が増すという事になります。
相違点②【農地取得における農業委員会許可の要否】
農地を【特定】して【遺贈】する旨の遺言をした場合には、【農業委員会又は都道府県知事の許可】が必要となりますが、【相続】させる場合にはこの【許可】は不要となります。
また、【遺贈】の場合には受遺者が農業委員会の許可を受ける為の要件として【取得後の農地面積が一定以上になること】や【必要な農作業への従事性】、【農地の耕作性】等を求められ、この各要件を満たしていないと許可がおりませんが、【相続】させる場合にこの要件は不必要となります。
相違点③【借地権・借家権承継時の賃貸人の承諾の要否】
借地権や借家権を承継させたい場合に、【遺贈】の文言で遺言書を作成し、執行となると原則【賃貸人の承諾】が必要となりますが、【相続させる旨の遺言】ではこの【賃貸人の承諾】は不要となります。
上記3つのポイントのみ見てみても、遺言書作成の際に【遺贈】という文言を使うのか、【相続させる】という文言を使うのかによって【執行の際の手続きに変化が出て来る】事がおわかりになろうかと思います。
その法律上の効果のみならず、後にかかる手間をも考慮に入れて、遺言書作成時には【相続人】には【相続させる旨の遺言】を出来れば【詳しくその財産内容を明示し】文言に載せて遺す事が寛容であると思われます。
また、相続権を持たない方に対し財産を譲り渡したい場合に【遺言により遺贈】する事は有用ですので、【相続人】が持つ【遺留分】に十分配慮すると共に、【承継させる】や【与える】といった文言を使う事無く【遺贈する】と明確に記載し、ご自身の意思の実現に叶う遺言書作りを実践して頂きたいと思います。
関連URL:【遺言書作成前のステップ①】 :【遺言書作成前のステップ②】
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