【遺言書と遺産分割】

皆さん、こんにちは。横浜市港南区で活動中の行政書士 近田知成です。

第65回記事投稿となる今回のテーマは【遺言書と遺産分割協議の関係】です。


亡くなられた方が遺言書を残していた場合、自筆証書ならば【検認手続き】を経て、公正証書ならば当該手続きを経る事無く遺言書の内容を相続人間において確認することとなります。

関連URL:自筆証書遺言【検認】とは?

どの様式を採用するかの別はあるにせよ、生前の意思として故人自らが残している遺言書ですから、その書面には【伝え残しておきたい想い】が表されていると思われます。

また、その想いの根底には往々にして【自身亡き後に相続で揉めないように・・・】との配慮が存在しますので、その最終的な想いを相続人側が理解し、遺産の承継へ繋げていくのが原則的な相続の流れと言えるでしょう。

しかしながら、様々な事情により相続人間の総意をもって【遺言書とは違う遺産分割】をしたい・・・とお考えになるケースがあるかもしれません。

今回は【遺言書とは異なる遺産分割を成す場合】にクリアーしなければならない要件についてご紹介していきたいと思います。


先ず前提として、①遺言書の中で【遺産分割の禁止が指定】されている場合が考えられます。

法律上の効果を持つ条項の1つとして、この【遺産分割の禁止】が挙げられます。(遺言者は最大で5年を超えない遺産分割禁止の期間を定めることが出来ます。)

(遺言者において喫緊の遺産分けが行われると争族化】するおそれがあるとの認識をお持ちの場合に、当該【遺産分割の禁止】を指定する事があります。)

この場合には、相続人全員の合意があったとしても遺言者の意思を反故にする事は出来ませんので、遺言書の内容と異なる遺産分割もまた実行不可となります。


②遺言書で【遺贈】がなされている場合。

遺贈を受ける【受遺者の同意が】必要となります。相続人ではない第三者が受遺者となるケースが多く、一般的にその受遺者が遺贈を受けない旨を表示する事は考えにくいと言えます。

仮に受遺者が遺贈を受けない意思をお持ちの場合には、【特定遺贈】ならば【遺贈を受けない意思表示】を【内容証明】で表し、【包括遺贈】ならば【遺贈を放棄する旨】を【家庭裁判所に申述】する型で一定のするプロセスを経る事も必要になります。

用語【特定遺贈】➡特定の財産を指定し、その財産を受遺者に遺贈すること。(例:甲土地を○○に遺贈する・A銀行の預貯金全額を○○に遺贈する・・・等)

用語【包括遺贈】➡財産の割合を指定し、その財産を受遺者に遺贈すること。(例:相続財産の○分の○を遺贈する・・・等)


③遺言書で【遺言執行者が指定】されている場合。

遺言執行者が遺言書内で定められている場合には、その遺言執行者の執行行為相続人側で妨げる事は出来ません

つまり、遺言書の内容と異なる遺産分割をする場合には、【遺言執行者の同意】が必要になります。


④遺言書で【遺産分割方法の指定】がなされている場合。

以前の記事でもご紹介しましたが、【相続させる旨の遺言】が遺されている場合には、被相続人死亡と同時に、その対象となる財産は遺言書内で示された方へ権利移転される事となります。

関連URL:【相続させる旨の遺言について】

つまり、この段階では最早遺産分割する対象財産としてその部分は存在しておらず、よって遺産分割をするという話にはそもそもならない事を表しています。

(※ 遺留分権利者である場合には遺留分の減殺請求をする事は可能です。 遺留分については別途こちらの記事をご参照ください。)➡【遺留分とは?】

この場合に、遺言書とは異なる遺産分割をするとなると、一度遺言書通りに財産承継をし、登記関係も済ました後に、相続人間等で財産移転ををする方向になろうかと思います。

相続人間の資産の移転ですので、かかる税金の事も含め検討が必要でしょう。


⑤【相続人全員の合意が存在】すること。

ごくシンプルな要件ですが、合意の形成には各人細心の注意を払う必要があります。今まで紛争の芽すら見えなかった相続人間の関係性がこじれてしまう恐れもありますので、お互いへの配慮が不可欠であると思われます。

その為、話し合いの中で意見の押し付けや一方当事者を軽んじる事など無いよう気を配らなければなりません。


このように、【遺言書とは異なる遺産分割】を行うには幾つかのハードルが存在し、それぞれの要件が複合的に絡んでいる場合もあります。

実際に検討するにあたっては、各要件を明確に認識し、なお疑問をお持ちならば、専門士業の方のアドバイスを受ける等の工夫も取り入れ進めていくことが寛容となるでしょう。

 

 

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